近年、日本サッカーは目覚ましい進化を遂げている。多くの日本人選手がヨーロッパのトップリーグで活躍し、2022年のカタールワールドカップではドイツ、スペインといった強豪国を相手に堂々たる戦いを繰り広げる姿が世界中の注目を集めている。「史上最強」とも評される日本代表の強さの背景には、他国には見られない独自の育成システムの存在がある。
サッカー大国とされる欧州では、才能ある若手選手は10代半ばからプロクラブのアカデミーに所属し、徹底したトレーニングと厳しい競争の中で育成される。そして18歳前後にはトップチームデビューを果たし、早ければ10代のうちに世界の舞台に立つことも珍しくない。
一方、日本の育成システムはこれとは大きく異なる。もちろん、プロクラブのアカデミー出身者も多いが、日本では依然として高校・大学サッカーがプロへの重要な登竜門として根強い人気と実績を誇っている。特に近年は、大学を経て20〜22歳でプロ入りするルートが「成熟した即戦力」を生み出すパターンとして注目されている。
この背景には、日本独特の教育・文化的要素が関係している。日本では「文武両道」が重視され、学業とスポーツの両立が当然とされている。サッカー選手を目指す若者も、進学を重視する親の意向や、将来を見据えた堅実な考え方から、高校・大学を経てプロを目指す傾向が強い。実際、プロ契約を結んだからといってすぐにトップチームの試合に出場できるわけではなく、フィジカルや戦術理解、人間性といった面を大学サッカーでしっかりと鍛えることが、むしろ選手のキャリアを安定させる近道となっている。
その象徴ともいえるのが、ブライトンで活躍する三笘薫や、ポルトガルのスポルティングで主力としてプレーする守田英正だ。彼らはともに大学サッカーで実力と経験を積み、満を持してプロの世界に飛び込んだ。その結果、欧州の高いレベルにも即座に適応し、短期間で存在感を示すことに成功している。
さらに、日本独自のもう一つの特徴が、Jリーグの下部組織と学校サッカーの共存だ。多くの国では、プロクラブのアカデミーに入れなければ高いレベルでサッカーを続けることは難しいが、日本では高校や大学といった「学校サッカー」の道が確立されており、選手自身が自分に合った環境やタイミングを選択できる柔軟性がある。
この多様な選択肢と、焦らず段階的に成長を重ねる文化こそが、近年の日本サッカーの層の厚さと競争力を生み出しているのだ。単に「早熟の天才」を追い求めるのではなく、選手がそれぞれのペースで着実に力をつけ、結果的に世界の舞台で活躍する——こうした独自の育成環境は、今や「世界で唯一のモデル」として注目を集め始めている。
今後、日本サッカーのさらなる飛躍には、このシステムをいかに磨き、欧州や世界と戦う中でアップデートし続けられるかが鍵となるだろう。しかし、これまでの成果が示すように、日本は確かな道を歩んでいる。
